カフェは一人で開業するのがいいか、それとも誰かと一緒にするのがいいか

友人はビジネスパートナーになり得るのか。
カフェの開業を夢に見てる人の中には、「他の誰かと一緒にやる」事を考えてる人もいるんじゃない?例えば、スイーツ作りが得意な友人と一緒に、将来はカフェを開こうねって話してるとか、「私が料理担当で、そっちはホールとドリンクしたら最高じゃない?!」とか。世間では、「友達同士での開業は失敗する」なんて言われてるけれど、果たして、本当なのかな?他の人との開業にはどんなリスクがあるんだろう?この記事では、実際に友人と一緒にお店を出した経験がある私が、友人や知人などの「他人」と開業する事に対して、実際に起こった事と当時感じた事を書いてます。結婚を前提としたカップルや夫婦での開業の場合はまた別です。なぜそれは別なの?って事についても書いてます。まぁ、結論から言うと、私は共同で出資した店を3カ月でたたみました。完全に失敗です。メリットよりもデメリットの方が遥かに大きかった。できる事なら一人での開業を薦めます。その理由もきちんと書いてますので、参考にしてみてください。
突然降って湧いた2店舗目の出店話

開業して3年が経過した2015年の夏、学生時代から付き合いもあり、私がカフェを開業した後も良き相談相手で、プライベートでも良く会っていて、仲の良かった友人(以下A)から、一緒にテナントを借りないかと話を持ち掛けれらた。当時、私は自分の店を持っていたし、Aもクリエイター(グラフィックデザイナー)として自分の個人事務所を開いていた。
「え?事務所あるやん。お前従業員も居ないのに、何でわざわざもう一つ拠点作るん?」と聞いたら、
「自分の先輩が、今使ってる事務所を移転するんだって。結構、内装もお金かけて勿体ないし、スケルトンに戻すの面倒くさいから、借りんか?って声かけられて。でも、俺もう既に事務所あるから、メインの仕事場と言うよりは、作業スペース兼、打ち合わせスペースにしたいなって。でも、それじゃあ広さを持て余すから、半分にしてシェアしない?」と誘われた。悩みに悩んだけど、2店舗目で勢いをつけたいと思って、話に乗ることにした。その時の様子はこんな感じ。
- お互い、メインとなる店舗や事務所を別に築いていて、セカンドショップ(オフィス)としての開業。
- 場所は、私のメイン店舗、友人のメイン事務所の中間地点にあり、車で10分程度の場所。
- 店舗の前借主は友人の仕事上の先輩であり、私も顔見知り程度の知人でもあった。
- 敷金(3カ月)、家賃(8万5千円)、店舗改装費(120万円)は全て折半。
- 私は、主に焼菓子の製造と販売がメインのショップ。
- 友人は、オフィス兼自身がデザインしたアイテムの販売を行うショップ。
- お客様の利便性向上を図るため、レジや会計システムは一緒にしていたが、売上の計上先は別々。
- 6割のスペースをショップ兼打ち合わせスペースとして共有。
- 2割が私のキッチン、2割が友人のオフィスとして使用。
- 電気代は私が支払い、ネット回線代などを友人が支払う。
- 改装費と別に、私は設備などで100万円を別途支払い。
とまぁ、こんな感じ。店舗の内装は、それ程作りこんだ訳ではないけど、友人が店舗デザインしたいという事もあり、全て任せる事にした。そして私はこの後、この店舗でひと夏も越さずに関係を解消する事になる。
初めて見る他人の仕事ぶり。足を踏み入れた他人の私生活。

そう言えば、Aの方は、いつも私の店に来て、店の片隅で私の仕事をしている姿を見ていたし、お客様との接し方を見ていたが、私はAの仕事をしている姿を見た事がなかった。クリエイターという事もあり、出来上がった商品や作品を見たことはあったけれど、どんな手順でどんな仕事をしているのかは一切知らず、クライアントともどういう接し方なのかも知らなかった。私が知っていたのは、Aの友人としての一面だけだった。案の定、共同出資したお店がスタートすると、この価値観の違いにすぐにぶち当たった。お店という場所に対しての考え方、仕事という作業に対しての考え方、お客様という相手に対しての考え方、お金を稼ぐという方法についての考え方。全てが違ってた。
ある日、(共同出資した)店に行ってみると、ガラス張りのファサードが全て結露していた日があった。中に入ってみると、ものすごい悪臭。奥のオフィスに行ってみると、椅子を並べてベッド替わりにして寝てるAの姿があった。心配して声をかけると、昨日先輩達と呑み過ぎたらしい。にんにくもいっぱい食べたらしく、めちゃくちゃ臭かった。私は、コンビニまで走って水とフリスクを買って戻り、Aに与えた。体臭も臭くなっていたので、家に帰ってシャワーを浴びて着替えてくるように言った。朝まで呑んでたみたいで、まだベロベロ状態だったので、タクシーを拾って乗せてやり、タクシーの運転手さんにAの自宅の住所を教えて送ってもらった。その後は私一人、異臭のする店に戻り掃除と開店準備。散乱した店舗スペースを掃除しながら、私って何してんだって急に虚しくなった。
誰がボスなのか、誰の店なのかが分からない中途半端な店だった。

その後も何度か似たような事が数日に一回起きる。その度に、私は物申すけど、家賃やその他のコストを折半してる事もあり、「気をつけるけど、ここは半分は俺の事務所でもある」って感じで改善される事はなかった。そんな感じだから、お客様も日に日に来なくなりり、売り上げもどんどんと下がっていく。私が店に立てない時は、バイトを雇って店番を頼んでいたが、お客様が1組の時もあり、赤字な営業日も増えていった。価値観の統一が必要だと思い、中立の立場で進言してもらうべく、前借主でもあるAの先輩の所に駆け込むも、「あなたが真面目すぎるんだよ。もっと彼(友人)を自由にさせてやればいいんだよ。」って言われる始末。共同出資者でもあるそいつの事で疲弊しきっていて、勝手にその人(先輩)の事を中立だと思い込んでいた。「なんで私には誰も味方がいないんだ?真面目に店をやってる私が悪いのかな?」別に被害者意識が高いわけでもなく、友人の全てが悪いわけではない。でも、事務所で寝たけりゃ、もうひとつの自分のメインの事務所で寝ればいいし、呑みに行くのはいいけど翌日に体調壊すほど毎日呑まなければいい。ここはお店であって、お前の家じゃないって罵倒したこともあった。ボスもいなければ、誰の店でもない。出資比率は50:50だからこそ、勝ち負けがつかない試合をずっとやってる。そんな感じだった。けれど、今思えば一番の原因は、相手の事を深く深く知らないくせに、こいつ事は理解してるし、こいつなら私のやり方を理解してくれると思ってたのが悪かったのだ。言わば、人を見る目がなかったのだ。徐々にずれた価値観は、もう友人関係には戻れないほどズタズタになっていた。「こいつとやっていても意味がない」と気付き、私は2カ月ちょっとでセカンドショップから身を引く決断をした。そして、共同出資した店から身を引いた。契約関連の名義変更や設備の回収などで全てが終わったのは、開業してから3カ月後だった。3カ月のために、数百万の資金をつぎ込み、日々の赤字を出していた。もちろんAとの友人としての関係も崩れ去り、それ以来一度も会ったことがない。そして、私が撤退した後、数か月後にはその場所は空きテナントになってた。そして、風の噂でAはメインの事務所も撤退して、Aの先輩の事務所に身を寄せてると聞いた。
親子や夫婦でも価値観はずれるのに、他人とならもっと努力が必要

価値観の違いは誰にでもあると思うし、自分と全てが全く同じ価値観の人なんていない。親子や夫婦でも価値観の違いから衝突するのに、赤の他人と価値観が同じなワケがない。でも、共同出資して店を出す前は「そんな事はない、自分達は大丈夫」と思ってた。同じものを楽しいと感じていたから、一緒にビジネスをやれると勘違いしていた。私達は、売上こそ別々ではあったものの、価値観の違いは徐々に店の運営にも出てきて、Aの方はオリジナルグッズの品切れが目立つようになってきた。お客様のためにも、品切れを頻発するのはよくない事を伝えると、「俺はそういう戦略だ。わざと品切れにさせてる」との事。価値観の違いは、もはや方向性の違いになり、悩みの種になり、最終的にストレスになってしまった。はじめに、結婚を前提としたカップルや夫婦の場合は別と書いたけど、それは同じ方向を向いて、同じ釜の飯を食らう「運命共同体」だから。生活の収入源も売上から捻出し、生活を豊かにするために一緒になって仕事を頑張る。お互い真剣に仕事をしていれば、言い争いになる事もあるし、時には夫婦喧嘩に発展する事だってある。それでも頑張って一緒にお店を続けて行けば、個々の価値観とは違った「2人の共通の価値観」を一緒に創造していけるから。そういう意味では、夫婦で一緒にやるという事に価値はあると思う。人間同士、価値観は違うのが当たり前です。それをしっかりと肝に銘じて。
それでも他人と一緒に開業したい人は

仲間を否定してるワケじゃないし、他の人と一緒にはじめるのがダメだと言ってるワケでもない。ただ、経験上おすすめはしないだけ。これまでの文章を読んでもまだ、他の人との開業を考えてる人に伝えれるアドバイスは、代表者と役割をはっきり決めておくことと、お互いにきちんと敬意と覚悟を持って開業すること。そして一番大切なのは、どんな結果になろうと、相手のせいにしないこと。「自分が悪い」と自分を責めろと言ってるわけではありませんし、誰が悪いのかを決める必要もありません。元々あなたは、開業前に「一人で開業するのか」それとも、「友人(または身内)と開業するのか」を選べる立場にあったわけです。選んだ結果がどうあれ、それを他の人のせいにしたところで、反省もしなければ学びもありません。成功しようが、失敗しようが、何かしら自分には得るものがないとただの時間と労力とお金を費やしただけになってしまう。そして、これは当たり前のことなんですが、売上が減ると必ずと言っていいほど摩擦が生じる。お金が無くなると、人はピリピリします。そうすると、店の雰囲気も悪くなる。そこまでして、他人と一緒にやる意味があるんでしょうか。カフェという業種だけに限ってしまえば、他の人と一緒にやるメリットなんて特にありません。一人じゃないから寂しくないってくらいで、それ以外は一人の方が捗る事の方が多い。もしも、他人と一緒に開業するのであれば、売上の配分、コストの捻出、仕事量の割り振り、考える事はたくさんある。店舗の代表者は誰なのか、仕事の役割や責任範囲をしっかりと取り決め、それに見合った対価をきちんともらう。代表として責任も果たしたり、色々仕事量は多く負担してるのに、もらえる取り分は2人とも同じなんて、そんなブラックな働き方をするくらいなら、雇われた方がマシじゃないか。他の人と一緒にする意味をきちんと考え、それを最大限に生かしてこそ、やる価値があると思う。
一人で開業する事はデメリットではない

はじめての開業を一人で開業することは、決してデメリットではない。確かに、はじめての開業は不安だと思う。他の人と開業する事で、気が紛れると思う。だけど、一人で考え、決める事こそが開業する楽しみでもある。あなたが考えた経営方針を実現できるのは、あなただけ。他の人には、あなたが思い描いていることを実現する力もなければ、その気もないのだ。開業を考えているあなたには、どういうお店にしたいか、どんなお客様に来てほしいか、様々な目標やプランがあると思う。他の人と開業を考えてるのなら、あなたが今思っているプランと同じように、相手にも相手なりの考えがある。それらを全て統一するのは、中華全土を統一した秦の始皇帝並みの努力が必要だ。もしくは、色々と考えてるあなたと違って、逆に相手は何も考えがないのかもしれない。あなたの思考にぶら下がって「私もそれいいと思ってた!」なんて、あたかも自分も同じように考えてましたって言うけど、本当は何も考えていない人って割といるんです。一緒に開業を計画してる相手の、今見えてる一面だけで判断してないですか?自分で考えて、試行錯誤するからこそ、お店も人も成長するのだ。人を見る目を養い、決断を下す勇気を持つ事は、良い経営者になる最初の一歩だと思います。どうか、感情にながされず冷静に判断して、あなたの夢を叶えてください。
COFFEE BREAK

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地方在住、コーヒーショップの経営者。1983年生まれの38歳。
独身時代はフリーター、工場勤務などを点々とする。結婚を機に地元の中小企業に営業兼品質管理者として8年間勤務。その後、勤務していた会社がリーマンショックのあおりを受けて、事実上解散。夫婦で相談した結果、お互い自営業でやりたかった仕事をはじめる事を決意。紆余曲折あったが、2012年の4月に未経験ながら地元に小さなカフェを開業。その後、オープンから7年を迎えた2019年に、それまでのカフェスタイルからコーヒーと焼き菓子のテイクアウトを主体とした、コーヒーショップへ店舗を改装。現在、お店は通算10年目に突入。コロナ時代で悪戦苦闘中だけど、家族と楽しく過ごしてます。
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