パルプトナチュラルの豆について思うこと

正解は一体どこなのか?
近年、急激に多様化しているコーヒーの精製方法。
そして、更に進化し続ける抽出方法。
同じ農園の同じ種類の豆でも、精製方法と抽出方法がそれぞれ異なれば、数通り×数十通りでゴールはたくさん出来上がる。
そして、それぞれの精製方法、抽出方法で目的地も大きく異なります。
今回は、パルプトナチュラル(別名:ハニープロセス)と呼ばれる精製方法を用いた豆について、コーヒーショップを営む私が思う事を書いてみたいと思います。
私なりの見解になりますが、パルプトナチュラルを美味しく抽出するコツは、「エイジングの期間の長さ」にありました。
お客様の好みと地域性を考えると、やっぱりウォッシュトだけど

まずはじめに、私はコーヒーショップを営んでますが、ロースタリーではありません。
コーヒー豆は、ロースタリーにお願いして焙煎した豆を納めてもらっています。
なので、コーヒー豆については勉強しましたが、焙煎そのものの工程についてはあまり詳しくはありません。
けれど、お客様に一年を通して満足していただけるよう、季節毎に豆を変えてお客様に提供しています。
そんな私のお店ですが、お客様にはやはり昔ながらの中深煎り~深煎りのウォッシュトの豆がニーズとしては高く、浅煎りやナチュラルの豆でのご注文は比率としては、そう高くありません。
恐らく地域性も大きいと思います。
私の住む地域では、昔ながらの喫茶店文化が今も根強く残っていて、昭和~平成初期に開業して、今もなおネルドリップ、ハンドドリップ、サイフォンで提供するお店が多く残っています。
ナチュラルや浅煎りは、「薄い」「酸っぱい」「コーヒーを飲んだ気にならない」とおっしゃる方もいらっしゃいます。
そんな地域ですが、今回久しぶりにパルプトナチュラルの豆を仕入れてみました。
パルプトナチュラルの精製の仕方については割愛しますが、味わい的に言うとナチュラルとウォッシュトの中間と捉えてもらっていいかと思います。
なぜ、ナチュラルでもなくウォッシュトでもなく、パルプトナチュラルを扱うのか

パルプトナチュラルはナチュラルとウォッシュトの中間と書きましたが、良くも悪くもどちらにもならないという事がひとつの特徴かもしれません。
よりフルーティーな味わいを求めるのであれば、ナチュラルの方が果実感が出るだろうし、香ばしさやしっかりした苦みを出したいのであれば、ウォッシュトの方が理想の味を出しやすいと思います。
また、私自身がロースタリーではないため、焼きあがった豆でしか勝負する事ができません。
ビバレッジ(ドリンク)としてお客様に提供する場合、その仕上がりは豆本来のポテンシャルとロースタリーの焙煎の出来に委ねられ、抽出ではいかにそのポテンシャルとロースタリーの考え方を汲み取るかとう作業になってくるのではないかと思います。
では、なぜそんなナチュラルでもなくウォッシュトでもなく、パルプトナチュラルの豆を選ぶのか。
それは、「フードとの相性」を考えるからです。
以前の記事にも書きましたが、フードペアリングの観点から考えると、このナチュラルとウォッシュトの中間という味わいこそが、ベストマッチするフードがあるからです。
フードペアリングの過去の記事はコチラをごらんください。
例えば、今の季節だったらシュトーレンなんかのフードとも相性抜群です。
もちろん、ナチュラルでもウォッシュトでも自分の好きなコーヒーなら間違いではありません。
クリスマス、年末年始とフードの種類やボリュームが多くなるこの季節には、どのフードともバランス良く組み合わせることができるというメリットがあります。
難しいパルプトナチュラルの味の着地点問題

この季節のフードとの相性が良いとは言え、このパルプトナチュラルの味の着地点を探すのはなかなか難しいんです。
冒頭にも心の叫びを書いたけど、どこが一体正解なのかがすごく分かりにくいと感じています。
ウォッシュトのように、この調整にするとバキッと決まって一気に香ばしさが広がるってわけでもなく、ナチュラルのように、華やかさやジューシーなフルーティーさが広がってくるわけでもないパルプトナチュラル。
確かに、比べてみるとウォッシュトよりは少しフルーティーだし、ナチュラルよりはほんのり香ばしい。
ラジオの周波数を合わせるかのように、少しずつダイヤルを回して一番バランス良く味わいが出るところまで持っていく。
妥協すれば、「こんなもんでいいだろう」と思えるし、こだわろうと思えば「もっともっと」と、とことんこだわれる。
この、作業が何とも難しく、終わりがない。
そして、エイジングが進むと、香ばしさが増したり、フルーティーさが増したりと、更にまた着地点が変わる。
お客様に常にベストな状態でご提供するためには、何度も調整が必要になります。
調整するコストを考えると、なんともお店泣かせな豆ではありますね。
エイジングさせることで出てきたパルプトナチュラルらしさ

最適解が出たのは、焙煎から1週間経った後でした。
つまり「エイジング」を進めていく事で、しっかりとパルプトナチュラルらしさが出てくるのです。
通常、私の店舗で使用する豆は、エイジング期間を3日(長いもので4日間)設けています。
郵送で送られてくるので、実際の店舗でのエイジングは1~2日間程度。
パルプトナチュラルもこれまでの豆と同じタイミングで調整に入りました。
しかし、何度抽出しても味が決まらない。
なんだか味にモヤがかかったような、ぼんやりとした味わい。
「んーパルプトナチュラルって、こんな味わいだったかな・・・」と不安に駆られました。
結局、味がまとまらないので、お客様への提供は見送り、別の豆で営業することに。
そして、焙煎から1週間が経ったある日に、再び調整してみるとビックリ。
これはパルプトナチュラルにしか出せない味わい

口当たりは柔らかいのに、香ばしい味わいと、ほんのりフルーティーな後味の絶妙なバランス。
これまでのモヤがかった味わいとは一変してました。
これは、ウォッシュトでもなくナチュラルでもなく、まぎれもなくパルプトナチュラルの味わいだと言えます。
焙煎豆の二酸化炭素含有量は、通常は焙煎度合いによって変化する事が多い(浅煎りよりも深煎りの方が二酸化炭素の含有量が多い)と考えられていますが、今回扱ったパルプトナチュラルの豆は、店舗で使用している他の深煎り豆よりも煎りが2段階ほど浅いものでした。
当然、豆の種類や保管状況、抽出工程によって二酸化炭素の量も変化するのは当たり前なのですが、通常のウォッシュトの豆の感覚から考えると、倍のエイジング期間を取ってはじめて豆の持つポテンシャルが感じれるというのは、何とも興味深い体験でした。
また、今後も10日、15日と焙煎から日が経つにつれて、徐々に味わいがなじんだり、丸くなってきたりと更なる変化が楽しめそうです。
久しぶりに扱ったパルプトナチュラルの豆があまりに印象的なのと、焙煎の技術が日々進歩している事を実感しました。
今後は積極的にウォッシュト以外のプロセスの豆も扱っていこうと思える回でした。
COFFEE BREAK

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地方在住、コーヒーショップの経営者。1983年生まれの38歳。
独身時代はフリーター、工場勤務などを点々とする。結婚を機に地元の中小企業に営業兼品質管理者として8年間勤務。その後、勤務していた会社がリーマンショックのあおりを受けて、事実上解散。夫婦で相談した結果、お互い自営業でやりたかった仕事をはじめる事を決意。紆余曲折あったが、2012年の4月に未経験ながら地元に小さなカフェを開業。その後、オープンから7年を迎えた2019年に、それまでのカフェスタイルからコーヒーと焼き菓子のテイクアウトを主体とした、コーヒーショップへ店舗を改装。現在、お店は通算10年目に突入。コロナ時代で悪戦苦闘中だけど、家族と楽しく過ごしてます。
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